Tennessee Express代表山路けいとさんと、テネシー・ウィリアムズについて語る

対談 テネシー・エクスプレスの山路けいとさんと別役慎司

別役慎司 with 山路けいと

東京を拠点にテネシー・ウィリアムズの戯曲を題材にリーディング会や自宅公演などを行う「Tennessee Express」代表山路けいとさんをお迎えして、「すかそあ」代表別役慎司と対談を行った。(2014年9月5日  新宿西口喫茶店「トップ」にて)

Tennessee Express
vol.1公演「ガラスの少女像」

震災後、寄り添える存在として

別役:それでは対談を始めていきましょう。今回はテネシーエクスプレスの山路けいとさんにお話をうかがいます。早速ですがテネシーエクスプレスを作ったのはいつごろですか?

 

山路:2011年の夏ぐらいです。

 

別役:もともとテネシー・ウィリアムズは好きだったんですか?

 

山路:いつから好きだったのか覚えていませんが、2009年から「ガラスの動物園」の翻訳は始めていたんですよね。

 

別役:それは趣味で?

 

山路:趣味で(笑)。確かなにかのきっかけで英語の「ガラスの動物園」を手にしたんですよ。読みはじめたら止まらなくて。日本語でも読んだことはあったんですが、英語の感じが各段に良かったんですよね。どうしても自分の言葉でアウトプットしてみたくて、何の目的もなく訳していました。それから他の短編とかも訳しましたが、人に見せるという意識はあまりありませんでした。2011年に、なぜその作品を人に見せるようになったかというと、震災がありましたよね? それまでシェイクスピアのお芝居をずっとやってきましたけど、震災の後、シェイクスピアの殺人や権力や貴族の話が、わたしの気持ちに合わなくなったんですね。もっと皆個人的なレベルで悲しんでいると思ったんです。それで、「今はテネシー・ウィリアムズのほうがもっと人に寄り添ってくれそう」と感じて、切り替えたんですよ。それまでいた仙台の劇団も震災で一旦休止になり、でも自分ではなにかをしたくて、規模が小さくてもいいので自分でできることをしようと、テネシーエクスプレスを立ち上げたんです。

 

別役:確かに、テネシーの作品は、個人個人の痛ましさや孤独感を描いていますよね。

 

山路:すごいパーソナルですよね。

 

別役:「欲望という名の電車」などは力強さもありますけど、「ガラスの動物園」って他の作品と違って、繊細さと弱さが際立っていますね。

ガラスの動物園への想い

山路:あまり日本では紹介されていないですけど、たくさん作品があるんですよね。時代毎に違いを感じます。

 

別役:アメリカで「ガラスの動物園」を観たと聞いたんですが?

 

山路:すごくよかったです。あの作品の、夢のような、もやがかかったような世界がよく表現されていて素晴らしかったです。

 

別役:あの作品には、繊細さだけでなく、上演しようとするテネシーの意欲があり、自分をさらけ出しているように見えて、でも自分じゃないよと言っている部分も感じて。それが舞台的な演出部分なんですが、実はトムのナレーションやプロジェクターで映す演出があまり好きじゃなかったりします。

 

山路:それはなぜですか?

 

別役:テネシーの逃げのようにも見えるんですよ。自分の人生を外に向けて出したいけれど、ありのままは恥ずかしいし、批判も受けたくないので、これはお芝居ですよ、自分の家族そのものではないですよという一線を置く演出を加える。その辺が煮え切らないんですよね。だから今回「ガラスの少女像」をやろうと思ったときに、確かに短編小説で、テネシー視点で綴られていて、トムをナレーターにすれば台本にしやすかったんですが、ぼくはそれをやりたくなくて。あまり客観視することなく、作品に没入してほしいと思ったんです。トムの演技にしても、言葉で語らず、表情や立っている姿で語れる作品にしたかったんですよね。そこが、今回作品を手掛けるうえで意欲的になったところですね。

 

山路:そうですか。トムのスピーチは戯曲のなかでも最も美しいものだと思うので、わたしは好きですけどね。

新宿西口トップのモンブラン
代表 別役慎司のテネシー観

The Pretty Trapとガラスの少女像

別役:事前に短編小説の「ガラスの少女像」を読んで頂いたと思いますが、「動物園」との違いを感じる部分ってありましたか?

 

山路:「ガラスの少女像」では語りを入れなかったということですが、テネシーが試作で作った「The Pretty Trap」という作品でも語りはなく、これは「動物園」でいうとジムが登場した最後のみを描いているんですね。過去を振り返って物語るのではなく、その当時の今を描いているわけで、比べてみると、なんていうんだろう、ドライな感じがしますね。「動物園」を書いたときに、センチメンタルというか、ノスタルジックというか、彼がずっとテーマにしてきたものが、粉砂糖のようにまぶされたんじゃないかなと思います。

 

別役:ぼくは「ガラスの少女像」のありのまま感が好きですけどね~(笑)。

 

山路:この作品はいつ書かれたんですか?

 

別役: 1943年頃ですね。1945年に「ガラスの動物園」を発表して、ロングランとなり、彼は有名になっていきますが、その少し前に当たります。

 

山路:「The Pretty Trap」も同じくらいに書かれていますね。

 

別役:劇作家の初期のころの作品って荒々しくてすごく魅力がありますね。チェーホフの「プラトーノフ」とかもそうですし、テネシーでいえば「Not About Nightingales(1938)」なんかもすごくいい。若いころに描いた短編小説や習作は、荒々しさとエネルギーがあり、難点はあっても魅力を感じます。今回、「すかそあ」ではテネシー・ウィリアムズを取り上げますが、いろいろな作家を上演していきたいと思いますし、ぼくの創作作品もやっていくでしょう。

 

山路:第一作目をテネシーにしたのはなにか理由があるんですか?

 

別役:もともとテネシーは魅力的だったんです。アメリカの作家では、アーサー・ミラー、ユージーン・オニール、そしてテネシー・ウィリアムズがいますけど、この三大作家はやりたいなと思いますね。これまでイプセン、シェイクスピア、ストリンドベリはやってきたので、今度はアメリカ大陸に行きたいかなと。「すかそあ」の企画が短編作品を上演していくものなので、短編小説から探しました。「ガラスの少女像」は、おっこれいいなと見つけたもので、ちょうど今いる役者たちにも合っていたし、作品的にはまとまった非常にいいものになるんじゃないかなぁと思っています。

 

山路:楽しみにしております。

ガラスの動物園について熱く語る

想像力のなかで広がる劇世界

別役:これまで、「ガラス、ガラス」といってきましたが、「ガラスの少女像」の場合、実はガラス細工はあまり出てこず、ジーン・ストラトン・ポーターによって書かれた小説「そばかすの少年」のほうが、登場人物のローラにとって大きかったんですよね。とてもピュアで、青少年たちに愛されるような純粋無垢な小説です。外に出ると重たい現実、黒いもの、暗いものがあるものですが、ローラの部屋は物語の世界やガラス細工といったピュアなものに守られている。今回の作品では「そばかすの少年」に重きを置きながら、うまく入れ込んで、外の世界と内の世界のコントラストを現しました。あまりメッセージ性は強く出さず、お客さんが色々なことを受け取り、感じ取れるような舞台にしたいと思います。

 

山路:「そばかすの少年」読みたくなりました(笑)。

 

別役:これからのテネシーエクスプレスの活動、予定とかはありますか?

 

山路:今考えているのは、「イグアナの夜」を読んでいこうかなと。

 

別役:それは参加者の人と読んでいって、ディスカッションするわけですよね? 一作品上演したりは?

 

山路:やってみたい気持ちはありますけど、戯曲の魅力にとりつかれると、上演するハードルが上がるのが悩みどころです。普段戯曲を読むことがない人と一緒に読んで、想像力を使って、皆の想像の中で上演している状態というのも面白いなと思っています。皆さん読んでいくと、上演しているのが観たいといいだすんですけどね(笑)。でも、読んでいくプロセスに今は魅力を感じています。テネシー・ウィリアムズは話し合う題材としても適していますしね。

 

別役:そうですよね、役者でない人ってあまり戯曲を読んだりしませんからね。そういった機会に実際に読んで、声に出して台詞を喋ったりすることで、いろいろな発見や貴重な体験があるでしょうね。

 

山路:想像力を豊かにしていったり、感想を共有することをアクティブにしていくことに価値があるとわたしは感じていて、今のところ、関心はそういう活動にいっている感じですね。

 

別役:また、新たな読書会の詳細など決まりましたら教えてください。

 

山路:ありがとうございます。

 

別役:ということで、色々とお話をありがとうございました。

対談を終えて 編集担当:秋江より

対談同行 秋江智文

 

今回の対談を企画したのは、舞台を作る側の思いが観客の人にとって面白いという確信があったからです。僕自身、対談を書き起こしながら、別役さんと山路さんの話に深く入り込めました。それは決して、僕が企画したものだとか、役者をやっているからというだけではなく、二人が真摯にテネシーウィリアムズに向かい合い、作品を通して何かを人に伝えようとしているものに引き込まれたのだと思いました。また同じ彼の「ガラスの少女像」という作品について、別役さんは作家・演出家としての見方があり、山路さんは翻訳をとおしての見方があり、その違いが大変面白かった。その辺りも踏まえぜひ一読していただきたいです。お時間がありましたら会場で生の舞台をみていただけたらと思います。

対談場所

新宿西口レトロ喫茶店トップ

珈琲店トップは東京の渋谷・新宿で4店舗を営業。自家焙煎コーヒー豆を使用した香り高いサイフォンコーヒー、手作りのレアチーズケーキ、オリジナルトーストなど。モンブランも人気。新宿西口店で対談は行われました。作品の時代が1930年頃とあって、レトロな雰囲気の喫茶店を選びました。

レトロ喫茶「トップ」ホームページ